リコー 山下社長がロンドンで講演 サステナビリティSDGs“はたらく”に歓びを

気候変動に関するグローバルリーダーシップカンファレンス「Reuters IMPACT 2022」に参画

リコー山下社長が講演

 リコーは、10月3日に英国・ロンドンで開催された「Reuters IMPACT 2022」においてリコーの山下良則社長が、「Empowering employees to be ESG Advocates(従業員をESGの推進者にするには)」と題した基調講演を行ったと、10月5日に発表した。
 リコーは創業の精神である三愛精神「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」のもと、環境保全と利益創出の同時実現を目指す「環境経営」を1990年代に提唱するなど、長年にわたって事業活動を通じた社会課題解決に取り組んできた。今回の基調講演では、2036年ビジョン「“はたらく”に歓びを」の実現に向けた取り組みの話を交えながら、気候変動を中心とした社会課題の解決にどのように挑むのかについて、次のように話した。

ESGを中心としたリコーの企業変革

 リコーでは、全社をあげてESGに取り組んでいます。リコーというと、世界約200の国と地域に8万人以上の従業員を擁するプリンターのトップメーカーとしてご認識頂いている方々もいらっしゃるかもしれませんが、リコーは今ではデジタルサービスのグローバル企業へと成長を遂げています。この大きな変革の過程において、私たちは常にESGをアプローチの中心に据えてきました。リコーは、1994年に「コメットサークル」という独自の循環型社会実現のためのコンセプトを制定し、製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の把握と削減への取り組みを通じて、サステナビリティにおいて市場をリードしてきました。
 現在は、当社のデジタルサービスを活用し、お客様のESG課題解決の推進、サポート、改革を進めています。今日この場をお借りして、リコーのさまざまなデジタルサービスについてご紹介をしたり、世界各国のお客様がカーボンフットプリントを削減する上で当社の連携ソリューションがどのように役立っているか、あるいは、いかにして(AIやRPAを活用した)高度な自動化システムを用いたサービスがお客様の効率化や業務のデジタル化につながり、さまざまなESG関連のメリットをもたらすかについてお話ししたりすることもできます。
 しかし本日は、当社の製品やソリューションについてご説明するつもりはありません。詳しくお知りになりたいようでしたら、後ほどお話しさせていただきます。
 私がお話しするテーマは、従業員をESG推進者にするにはどうすればよいか、ということです。

リコーの原点:三愛精神

 リコーのルーツは1936年に遡ります。この年、先見の明のある創業者 市村清が、今日に至るまで共鳴する理念を掲げて起業しました。彼は仕事に全身全霊で打ち込み、従業員に敬意を払い、公平な態度で接しました。市村が1946年に提唱した創業の精神は「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」というものです。1940年代と言えば、日本、そして世界が第2次世界大戦の荒廃から抜け出そうとしていた時期です。人を事業の中心に据えるという意味で、この精神は時代を先取りするものでした。
 リコーでは長らく、2つ目の「国を愛し」を「地球を愛し」と捉えてきました。こうした私たちを取り巻く世界への配慮は、従業員、お客様、投資家の皆様、ひいては社会全般にまで関係するものです。この精神を8万人以上いる従業員に常に共鳴させるということが、いつの時代も当社の成功を支える中心にありました。

CEOとしてのビジョン

 ではここで、デジタルサービスの会社となったリコーに対する私のビジョンを少しお話しさせてください。CEOに就任した5年前よりも前から、私はプラスの変化をもたらすということに情熱を注いでいました。従業員の幸福と事業の成功とが本質的に結びついているものだ、という想いがこのビジョンの中心にあります。
 多くの企業は「従業員の幸せがお客様の幸せにつながり、よって会社が成長する」という考えに価値観を見出していますが、私はこれをさらに進化させたいと思っています。リコーにとって、これは単なる考え方ではありません。リコーが創立100年となる2036年に向けて掲げたビジョン「“はたらく”に歓びを」は、はたらく人のあらゆる行動の原動力となるものです。私は、仕事にやりがいを感じれば従業員は卓越性を追求するようになると確信しています。そうした動機付けには継続的な取り組みが必要であり、これからご説明するESG課題はその基本的な要素の1つです。

従業員こそが変革の主役

 従業員が社会的に意義のある目的を持つ企業で働きたいと考えていることは皆さんお分かりいただけると思いますが、ESGの課題に関しては、意思決定者である経営幹部と従業員との間に認識のずれがある場合が多々あります。
 欧州で実施したある調査の結果に私は愕然としました。リーダーの4人に1人が、自分たちの組織は環境負荷を削減するための改善ができないと考えていたのです。また意思決定者のうち60%は、経営幹部に対して環境負荷を削減するためのインセンティブがないと答えました。同じく60%前後が、大きな影響をもたらせるかわからない、またはそれを実行するためのリソースがないと回答しました。
 一方、従業員の期待はそれを上回るものでした。欧州の3分の2の従業員は、会社が気候変動や不平等などの問題の解決に取り組むことを期待しています。また4分の1以上の従業員が社会問題の解決に注力する企業で働くなら給与が10%下がっても構わないと答えました。
 つまり、意志はあるのです。従業員は意欲的です。会社が行動を起こすことを期待しています。本気で変化を起こしたいと切望しているESG推進者達を、私たちはどう活かしていけばよいのでしょうか。

リーダーを支える多くのESG推進者

■行動を起こすことが求められる企業
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のイ・フェソン議長は最近、「我々は岐路に立っている。今下す決定によって住みやすい未来が約束される」と語りましたが、まさにその通りです。企業が断固たる行動を取ることが極めて重要です。
 例えば、リコーは意欲的な環境目標を定め、達成に向けて積極的に行動しています。先般、2030年までの温室効果ガス削減目標を30%から63%へと修正しました。実績が当初の目標を順調に上回っていたためです。
 当社はゼロ・エネルギー・ビルへの注力など、あらゆる事業活動で改善策を講じています。例えば、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を利用したデジタル製造手法の導入のみで、工場の消費電力が70%削減されました。また、リコーはRE100に参加した日本初の企業というだけでなく、他の日本企業にも参加を促しました。私は日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の共同代表として、再生可能エネルギーを最大限利用するためのコミットメントを強化するよう日本政府に働きかけています。こうした行動は影響力があり、他にもそれぞれの業界が同様の取り組みを進めています。
 しかし、依然として認識のずれがあります。私の経験から言えば、こうした解決策は個人として関わることができるものというより、「会社」が取る行動と捉えている従業員が大半です。ですが、企業目標の達成だけにとどまるのか、イ議長の言う全人類にとっての「住みやすい未来」を実現できるか、その分かれ目の鍵を握っているのは従業員一人ひとりではないでしょうか。

■従業員のESGに対する理解促進
 リコーでは、多くのリソースを投じて従業員のESGへの理解を促してきましたが、その効果は驚くものです。当然ですが、取り組みのスタートはトップからです。私たちはマテリアリティ評価を通じて、会社がどこでどのようにESG課題に貢献できるか丹念に見ていきました。
 まずは、従業員がESG課題をきちんと正しく理解できるようにすることが重要なステップとなります。簡単に聞こえるかもしれませんが、従業員だけではなく、上級幹部でさえ、未だにサステナビリティとCSR、ESG、SDGsの違いがはっきりわかっていません。略語だらけですので無理もありません。私たちは研修や日常的なコミュニケーションなどあらゆる方法を使い、従業員をESGの取り組みに巻き込んでいく必要があります。また、リコーでは、グローバルSDGsアクション月間を定めており、そこで全従業員がSDGsを直接支援するさまざまな活動に積極的に参加しています。
 私は最近、従業員に対して、自分の仕事がSDGsとどう関連しているか理解するだけでなく、それを同僚や家族、友人に説明できるようにしてほしいと伝えました。先日開催したグローバルSDGs写真コンテストは、全世界の従業員の素晴らしい活動の様子を紹介し、言葉の壁を越えて従業員同士がつながる機会となりました。当社では、他のKPIと併せて、ESG目標や従業員エンゲージメントスコアを取締役・役員の報酬に連動させています。

■従業員の役割とESGとの関連性
 従業員が自分の役割とESG課題との関連性を見出したとたん、驚くべきことが起こりました。会社全体で新たな形のイノベーションが現れだしたのです。例えば、低照度の場所でも発電でき、電池交換が不要になる「エネルギーハーベスティング(環境発電)技術」の開発に、コピー機やプリンターで培った感光体の技術を応用できる可能性が発見され、従業員は、これが数年前には考えもつかなかった新たなIoTデジタルサービスの実現に直接つながることに気がつきました。
 その他の例として、当社のコアであるインクジェット技術をもとにした、生きた細胞を精密に積み上げることができるバイオ3Dプリンターの開発や、iPS細胞を用いた創薬支援で人命を救える可能性も見えてきました。
 いずれの例においても、従業員は日常業務の枠を超えた分野に自らの専門知識を応用することで問題解決のチャンスを見出しました。しかし、彼らを突き動かしたのは経営陣の指示があったからではありません。従業員は自らの役割とESGの関連性の中により大きな意義を見つけ、それが彼らの情熱と好奇心を搔き立てたのです。
 つまりこれは当社の「“はたらく”に歓びを」というビジョンが具現化しているということを表しています。そして、これは皆さんにも起こり得ることです。従業員の仕事がお客様に、そして従業員自身に歓びをもたらす――それは創造力の発揮に他なりません。従業員は日常業務の枠を超えて次のレベルで考える力を身につけ、自分の仕事が環境や社会とどう関わっているかを考えるようになります。些細なことが従業員の心に響くことがよくあります。業務とESGとの連動が事業、お客様、従業員、地球全体に利益をもたらすのです。

おわりに

 私がお伝えしたいのは、皆さんの会社のすべての従業員は、単なる「業務行為」の枠を超えて、我々が切実に求めている変革を起こすESG推進者となる可能性があるということです。トップダウンで何もかも解決することはできません。
 もちろん、リコーにもまだ先の長い道のりが残されています。新たな目標や指示、データが日々出てきており、ESGの状況は刻々と変化しています。全世界の従業員に自分の役割とESGがどのように関連しているか見極めるよう絶えず促していくには、かなりの想像力とコミットメントが必要です。しかし、意欲と歓びに満ちた従業員は、持続可能な社会を築く上でまだ活用されていない力だと私は考えています。その力を上手く活用できれば、地球全体が計り知れない恩恵を受けるでしょう。
 私の好きな格言があります。「私たちは祖先からこの地球を受け継いだのではない、未来の子どもたちたちから預かっているのだ」。私たちの地球を救うため、今すぐ力を合わせましょう。将来世代にその解決を委ねてはなりません。